昨年4月に赴任した脳神経外科・川越貴史医師が、今月末で1年9ヵ月の任期を終え慈恵医科大学病院へ戻ります。当院での日々を振り返り、宇佐市の印象や思い出、自身の成長について質問してみました。
〇宇佐市の印象
私の母校、山梨大学周辺の町並みと雰囲気が近くて親近感が湧きました。地域の方も優しい方が多く、暮らしやすいところだなと感じました。
印象深いのは何を食べても美味しかったことです。宇佐名物の唐揚げはもちろん、スーパーのカレーも美味しいんです。お刺身も安くて質が高いし、野菜の味も濃くて、今までのスーバーとはレベルが違うことに驚きました。私はほぼ自炊をしないので、お総菜には大変お世話になりましたね。
〇地域の先生方との連携
脳外科は急性発症で運ばれてくる方が多く、かつ新規の患者さんのことが珍しくありません。その際、なぜこの薬を飲んでいるのか、治療中の病気、既往歴などの基本情報は非常に重要で可能な限り知っておきたい。そんな時、かかりつけの先生方へ連絡すると、どなたも快く応じて下さることに大変助けられました。
先生方へ直接御礼申し上げたいところですが、今回は任期の関係もあり叶いませんでした。しかし、お会いできた先生方は若輩の自分にも敬意をもって応対してくれましたし、訪問診療を担当して下さる先生も温かく、地域の皆さまに支えられて今日の脳外科があることを実感しました。
また、難しい症例の際には高次病院の先生方へ直接電話で相談できるのも有り難かったです。
宇佐市内は循環器なら宇佐高田医師会病院、脳外科なら当院へと専門科が対応する流れがありますが、それが困難であれば高次病院が請け負う、という役割意識がしっかりしていると感じました。
〇当院での就労環境
脳外科では中原院長はじめ豊田先生との報連相がスムーズで、適宜アドバイスを貰いながら診療に集中することができました。
また消化器内科や総合診療科、整形外科、麻酔科の先生方も非常に優しく、相談しやすい環境に恵まれ、知識はもちろん人間としての核の部分も成長させて貰ったと感じています。
コ・メディカルの皆さんの臨機応変な対応にもずいぶん助けられました。
医師はチーム医療のリーダー的存在ではあるけれど、専門的な知識やスキルはそれぞれのコ・メディカルの方がプロフェッショナルです。同じチームの仲間と力を合わせて患者さんのことを考え、自分はその責任を取るという立場で関われたので、とてもやりやすかったですね。
〇一年間で得たもの・・・宇佐に来る前と今とで自分自身が変わったと思うことがありますか?
こちらで経験を積むなかで、治療が終わったから退院ではなく、病気に至った経緯や生活状況、お住まいの地域の特性など、より様々な観点から患者さんの理解に努めるようになりました。
全人的医療といえば当たり前なのですが、家庭の問題や高齢独居の方など、暮らしに困難を抱えるがために退院できない、または入退院を繰り返す状況を打開するためには、患者さんである前に一人の人間であり、それぞれの人生があることを尊重しなければならない。そのことを改めて実感しました。
これは患者さんにとって何が最善かを考え寄り添う先輩ドクターの姿勢や、地域の先生方と患者さんとの信頼関係を見ていて、自ずと沸き上がってきた思いというか、変化かなと思います。
〇嬉しかったことを聞かせて下さい
病院スタッフから県内あちこちに連れて行ってもらい、充実した時間を過ごせたことですね。マラソンやボウリング、ゴルフ、ツーリングなど、どれも楽しかったです。余暇の時間はスタッフの皆さんの優しさに包まれて、日頃の疲れを癒すことができました。
〇苦しかったこと、辛かったことはありましたか?
自分の力が及ばず、患者さんの力になれなかったことが、ずっと心に残っています。時間が経ってもその時の悔しさは消えませんし、何とかできなかったのか・・・と自問することがあります。
〇先輩医師からの言葉で印象に残っていること
たくさんの先生方から語り尽くせないほど教わりましが、二つほどご紹介するとしたら・・・
指導医の先生から「手術が成功しても患者さんの症状が改善しなければ意味が無い。適応があっても本当に手術が必要か考えることが第一である」と指導されたことですね。
そのためには、患者さんの全身状態をしっかり把握し、今回フォーカスされている部分以外も良くするように診ることが大切なことを学ばせて頂きました。また術後の合併症から患者さんを守れなければ手術自体が台無しになってしまいますから、術後管理の徹底について改めてご指導頂いた言葉は頭に刻み込まれています。
また別の先生に「医師としての責任」について質問したとき、「患者さん、家族と向き合い、説明を尽くすこと、最後まで逃げないこと」と言って貰ったことですね。
シンプルだけれど、覚悟のいること。人の命と向き合う中で一番大切なことは、逃げない姿勢、愚直なまでの誠実さ。その信念を目の当たりにしたときに、すごく感銘を受けて。自分の今後の診療姿勢の礎になる言葉を頂いたなと思います。
〇縁があれば、また宇佐に来たいと思われますか?
是非来たいですね。落ち着いた町並みも好きですし、人も優しい。まだ行けていない場所もあるので、リベンジしたいと思っています。
川越医師は、12月末を以て当院から異動となります。赴任してから1年と9ヶ月という期間に、都市部の診療と異なる地域医療について見識を深め、先輩医師からもたくさんの学びを得たようです。当院での研鑽を糧に、今後の目標に向かって一心不乱に精進を重ねていって欲しいと思います。
川越医師の在任中、関わって頂いた患者さん、ご家族、また地域の先生方、関係機関の皆さまに心から感謝申し上げます。